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濡蓮(寝蓮)制作委員会~最後の一日(2)

濡蓮(寝蓮)制作委員会。続きからどうぞ。

最後の一日(2) ~濡蓮




ザーーッ・・・

兄さん?

ふと目を覚ましたそこは、約2ヶ月間慣れ親しんだホテルのベッド。
でも、いつも隣に眠っているはずのカイン兄さんがいない。

「兄さん、どこ?」

1.夜明け前

雨音が聞こえてくる。防音完備と謳われているホテルの一室で雨音が聞こえるのだから、外はかなり強い雨なのだろう。
ふと時計に目をやると、今は2時13分。
敦賀さんの腕時計が脳裏をよぎった。

止まった時計。それを絶えず身に着けている敦賀さん。
最初はそれを見て、敦賀さん自身のパーソナリティだなんて浮かれてしまったけど。あの時計は何かあったのだろう。
幸せになる資格がない、と鶏に告げた時のあの辛そうな表情が脳裏をよぎる。
そして、敦賀さんはカイン役、冷徹な殺し屋を演じているではなかったか!?またあの時のように街でチンピラに絡まれて喧嘩でもしていたら大変だ!

慌てて服に着替え、ホテルを飛び出したが、想像以上に雨が酷かった。

2.探して


「この雨・・・!傘持っていないのに。最上キョーコなら忘れないはずだけどヒール兄妹はどう考えても傘なんて身につけてないから、この場合雪花も傘無しだわよね?」
カインだって絶対に傘は持っていないはず。早く探し出さなきゃ風邪ひいちゃう、とホテル周辺でカインの行きそうな路地をあちこち30分ほど走って探しただろうか、広い公園の入り口で大きなゴミ袋を片手に彷徨っている、カインらしき長身の男性を見つけた。


「兄さん?」

「セツ!?なんでここに!?」

カイン兄さんはとてもびっくりしたようだ。
妹はすやすや眠っていると思ったんでしょうけど、生憎ブラコン雪花は兄さんの存在に敏感なのよ?飼い犬じゃないけど自分の傍から居なくなったらすぐ察知して捜し回るのよ?


「部屋にいなかったから探したのよ?ふふっ、ドジッ子兄さんがまたどこかでやくざと喧嘩したりしてるんじゃないかと心配しちゃったわ。さあ、お家へ帰りましょう。」

敦賀さんがあの時計の謎を言わないのだから突っ込まなかった。そしてこれからも突っ込まないだろう、と思う。深刻に受け止めると逆に深く沈んでしまうかもしれないから雪花は知らぬ顔でいるの。ドジッ子兄さんという言葉で兄貴の存在を可愛く受け止めてあげるの。それがカイン=敦賀さんの暗闇の灯火になればいい、と思う。

「雪花、傘も持たずに探したのか。馬鹿だな。」

「だって兄さんだって持っていないじゃない。それに、服は沢山買ったけど傘なんて一本も買わなかったでしょ!?今まで雨の時だって傘無しだったし、それにタクシー使うことも多かったし。」

「ホテルで借りるという方法があっただろう?フロントで呼び出せば1本くらい借りられたはずだ。これじゃあ、お前が風邪をひいてしまう。」

「それをいうなら兄さんの方が先にホテル飛び出したくせに!兄さんの方が酷い風邪ひくに決まってるわ!もうっ!どうでもいいから早くお家に帰って着替えましょう?」

いつまでも雨風吹き荒れる広場で言い合いしていては、びしょ濡れのカイン兄さんの体に良くないだろう、と手をぎゅっとつかんで庇のあるベンチへと引っ張って行った。
ここで少しでも雨宿り出来れば、と思ったのだが、見るとベンチは雨風が強かった為びしょ濡れ。とてもじゃないけど座れる場所ではない。だが、カイン兄さんはドカッと座ってふーっとため息をついた。

もしもし、どうしたんですか、敦賀さん?
無鉄砲なカイン兄さんとはいえ、このベンチはマズイでしょ?高価なコートが汚れます!直ぐにお尻も濡れますよっ!?

どうしよう、と敦賀さんの顔を見たら、あまりにも切なそうな複雑だったので私も辛くなり、思わず頬に手をあて、兄さんの顔を見つめてしまった。

3.見つけて

「兄さん、何か辛いの?少しでも口に出したらすっきりするから、妹の私でよかったら話してね。」

聞くつもりじゃなかったけど。
でも、そうでも言わないと自分自身が辛いのだ。兄がこんな苦しい思いをしているなんて。やっぱりただ一人の身内、しかも兄妹なんだもん、喜びも悲しみも共有したい。
と思ったら、思いがけない言葉が出てきた。

「セツ・・・夜が明けてチェックアウトしたら、俺たちの兄妹共同生活は終わる。あと数時間だ。もうお家と呼べる場所はなくなり、俺はまた天涯孤独の殺し屋に戻る。」

ええと、敦賀さん?カイン?どっち?
そう、カイン兄妹は消滅する・・・

チェックアウトしたらこの共同生活は終止符を打つのは知っているけど。
頭では理解していても実感が湧かなかった。
かつて先生の息子クオン少年を演じたときは、役が終わってとても寂しかったけど、「父さん」とまた呼んで良いと言われて嬉しかったっけ。この共同生活もそういうものとばかり・・・

もう「兄さん」とは呼べないんだ。
「私のドジっ子兄さん」って呼んじゃいけないんだ。

夢物語が終わり急に現実を突きつけられて私の胸はぽっかり空間が出来てしまったみたい。
「お守り」役だから「兄さんが何事もなくいつも元気でいられるように」とだけ考えてきたけど、兄さんのことを考えているようで、実は自分が「兄さんの存在に喜びを見出していたのだと気付いた。そして、失うものの大きさにショックで、雨に濡れた服が肌に突き刺すように冷たく重く圧し掛かってくる。
寒い・・・身体が震え、思わず私は両腕で自分の身体を抱きしめた。


「・・みさん、最上さん」

どうしたら良いのかわからず震えていた私の耳に敦賀さんの声が。

「最上さん、戻ってきた?帰ろう、ホテルへ。今日まで雪花役をフルで演じてくれてありがとう。心配させてごめんね。」

「敦賀さん?」

カインをやめたであろう敦賀さんはスッと目の前に立ち、温かい笑顔で私の顔を見ていてくれた。
ああ、敦賀さんが戻ってきた。これでカイン兄さんは居なくなってしまったんだな、と同時に戻ってきたいつも優しい敦賀さんが傍にいてくれて安堵した。

「身体が震えている。寒かっただろう?ほら、おいで。」

優しく私の耳元でささやいた敦賀さんはそのまま私をコートの中に入れて抱きしめてくれた。

4.抱きしめる(コートin)

それはまるで恋人のような温もりで。普段だったらえーっ、どうして!?と驚くだろう。でも、長時間雨に打たれて感覚が変になっていたのだろう、敦賀さんの胸の中が無性に気持ち良くて。
当然、敦賀さんもコートの中までびしょ濡れだったけど、それでも、とても温かかった。以前軽井沢で感じた温もりと同じ感じで。敦賀さん自身の香水はカイン役をするにあたってつけていなかったけど、同じホテルに寝泊りしてるから私と同じボディシャンプーの匂い・・・イイ匂い・・・先程まで感じていた寒さが吹き飛んでいった。
ああ、敦賀さんが私を温めてくれてる、助けてくれてる・・・などと勝手な解釈をして、その幸せなぬくもりに浸ってしまった。

暫くの間抱きとめられた私は、敦賀テラピーに酔ってしまったようで足がふらふらになり、敦賀さんは私に合わせて雨の中、時計を外した右腕で私の肩を優しく抱いて、ヒール兄妹の役を名残惜しむかのように、ゆっくり、ゆっくりと歩いてくれた。


妹以外には容赦の無いカイン兄さんという設定も大好きだったけど、敦賀さんも・・・こういう温かい兄さんも大好き・・・

カインが居なくなって雪花が居なくなっても・・・「兄さん」って呼んでいいですか?
また兄妹演じさせてもらえますか?
兄さんのお世話させてもらって良いですか?

ホテルに帰るまでの短い距離を、嵐の中早く帰ればいいのに、あれこれ反芻しながら歩いたため数十分くらいだろうか、長時間かかって戻った。そして当然、敦賀さんにはそんな思いを伝えることはできず一生自分の胸の中だけに秘めておくのだ。




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